バブル経済が崩壊してから、冬の時代が続いていた日本の美術市場と美術館。しかし、近年は、欧米や中国のブームに引っ張られるように、活況を呈しています。
自宅に現代美術
日本の美術市場では、自宅にセンスのいい現代美術を飾る人や、フェアなどで数十万円の作品を買うサラリーマンも見られるようになり、「見る」から「買う」に移行しつつあるといわれます。
シンワアートオークション
シンワアートオークションの現代美術の競売会の落札総額は、2007年春の約1億8千万円から2007年秋は約4億6千万円に急伸。
アートフェア東京
アートフェア東京に合わせた現代美術の競売会は3億2千万円に落ちました。株価下落などが心理的に働いたのか、冷静に厳しく価格を見ている印象があったといいます。
アートフェア東京に合わせて現代美術の競売会を開いたシンワアートオークションは「もっと爆発してもよかったな」と残念そうに振り返ります。
印象派や日本画が売れたバブル時代
バブルの頃の印象派や日本画の売れ方などと比べれば、現代美術ブームとは思えません。しかし、バブル期は企業が主役でしたが、今は個人が中心になっています。「この状態で成長した方が市場は底堅い」と言われます。
奈良美智、村上隆に続くスター
山口晃、小林孝亘、加藤泉、日野之彦
今回の競売で2千万円に達した山口晃や、小林孝亘といった中堅から、加藤泉、日野之彦ら若手まで、奈良美智、村上隆に続くスター候補が現れているのも明るい材料。「『ブームの始まりの兆し』でしょうか」
売り上げは年間10億円
アートフェア東京の売り上げも、2005年の2億円から2007年は約10億円に伸びましたが、2008年は入場者数が増えても同じく約10億円。「給与所得者が支える以上、1年で大きくは変わらないでしょう。でもこの動きが一過性で終わらないようにしないと」と辛さん。
画廊経営者も「システムがそろった」
奈良・村上を国際的に売り出した画廊経営者も、フェアやオークションなどの定着で、「ようやく(ブームにつながりうる)システムが出そろった」と話します。
アイコン的な作品
一方で、急成長する中国の市場が気になります。「作品を換金の手段と考える風潮もあり、売れるアイコン的な作品ばかりが求められる」
作家が自身の表現を持続的に展開すべき
しかし、そうなると作家が自身の表現を持続的に展開するのは難しい。「日本もその流れになってしまうのかどうか」との懸念もあります。
美術館に村上氏の代表作が少ない
あるインターネットギャラリーのアートディレクターは「欧米から見れば、まだ『おままごと』ではないか」と手厳しいです。そして日本の美術館に、奈良氏・村上氏の代表作がほとんどない現実を指摘。海外から日本に来た観光客が日本の有名な現代美術を見ることもできない、と嘆きます。
国立美術館の予算増
そして現代美術を根づかせるには日本が美術を文化・観光資源と考える必要があるといいます。美術館などに寄付した場合の税金面での優遇、国立美術館の予算増、教育の中での位置づけなどあらゆる面に及ぶといいます。「スポーツへの支援はあんなに手厚いのに」
文化庁の青木保長官
文化庁も作家を留学させたり、イベントに補助金を出したりしていますが、必ずしも大きなインパクトにはなっていないようです。「アーティストはもっと尊敬されていい」と語る文化庁の青木保長官も、個人的に現代美術を含むアジアの文化状況に関心を抱きつつ、「文化庁としては、一歩一歩やっていくほかない」と話します。
現代美術館の20年
1988年 | 東高現代美術館が期間限定で東京・青山に開館 |
1989年 | 広島市現代美術館開館 |
1990年 | 水戸芸術館、ワタリウム美術館開館 |
1992年 | 横浜でアートフェア・第1回NICAF。香川県・直島にベネッセハウス |
1994年 | 上野で若手の登竜門・第1回VOCA展。岡山県に奈義町現代美術館開館 |
1995年 | 東京都写真美術館、都現代美術館(都現美)、豊田市美術館開館。都現美は1994年に6億円でリキテンスタイン作品購入 |
1999年 | 草間彌生が、都現美で個展。セゾン美術館閉館 |
2000年 | 第1回越後妻有アートトリエンナーレ |
2001年 | 奈良美智が横浜美術館、村上隆が都現美で個展。第1回横浜トリエンナーレ |
2002年 | 米国で村上隆作品が38万ドルで落札 |
2003年 | 森美術館開館。オノ・ヨーコ展が全国巡回 |
2004年 | 金沢21世紀美術館開館 |
2007年 | 東京・六本木に国立新美術館など開館 |
2008年 | 十和田市現代美術館開館 |
アートフェア東京2008が活況
2008年4月はじめ、東京は「現代美術週間」の様相を呈しました。有楽町の東京国際フォーラムで、現代美術系の画廊など108軒が作品を即売する「アートフェア東京2008」が4日間で過去最高の約4万3千人を集めました。期間中に現代美術の競売会も開かれました。
外神田に28画廊が結集
東京・外神田の旧中学校でも現代美術28画廊によるフェアが初開催され、約5万人が来場。都心のビルでは現代美術展が開かれました。
入場者が1万人増える
NHKの全国ニュースも伝えたアートフェア東京。2007年より1万1千人も入場者が増えたことについてエグゼクティブ・ディレクターは「フェアが『事件』として報じられました。お金が動くと、人も動く」と話します。
「国宝級」の運慶工房の仏像をしのぐ
2008年5月14日、ニューヨークの競売で現代美術家・村上隆の立体作品が、「国宝級」と注目された運慶工房の仏像の落札額約14億円を超える約16億円で落札されました。
「アートの聖地巡礼」
雑誌、それも男性誌や一般誌での特集も目につきます。「エスクァイア日本版」2008年5月号の特集は「アートの聖地巡礼」。
現代美術は売れ筋!
2008年2月の現代美術特集が評判だった「ブルータス」の編集者は「アート特集は雑誌のイメージが高まるので売れなくても年1回はやってきましたが、最近はむしろ売れ筋です」と話します。現代美術に関心を持つ層は広がっているのでしょう。